勝負力を磨く(メンタル編)

そういえば、以前同タイトルでフィジカル編を書かせて頂きましたが、続きをずっと書いていなかったもので…今回はメンタル編として書かせて頂こうと思います。


さて、皆さんは「勝負強い選手」と言うと、どんな選手をイメージしますか?

恐らく多くの方がイメージするのは、ここぞという時に力を発揮できる選手とか、勝負所に強い選手とか、そういう感じじゃないでしょうか。


陸上競技は、他人と戦って順位が決まり、自分と戦って記録が決まるという、2つの勝負の要素を持っています。

どんな競技会であっても、必ず順位と記録というものはついてきてしまうもの。

世界大会の代表選出にも、ただ標準記録を突破しているだけではなく、指定の大会で何位以内に入るといった条件が付随することがほとんどです。

陸上や水泳などを除く、記録を競わない個人スポーツでは、ワールドランキングや、選考となる試合の順位、動き等で決めることになります。


ですから、選手は常に「年間のうちこの大会で良いパフォーマンスをする」と予めターゲットを定め、そこに調子の波を合わせる必要があるのです。


この「調子の波」には、もちろんメンタル的なものも含まれます。

調子が良くなってくると自然にメンタルが上がってくるものではありますが、早く仕上がりすぎてしまうと、大会を迎える頃にはこの調子が下がってしまうんじゃないかと逆に心配になることもあったり…

(分かりやすく言えば「幸せすぎて不安になる」的なメンタルかもしれません。いい時はずっといい気分で居ればいいのに…人間って難儀ですよね。)

更に大会当日は、当然緊張します。

程よい緊張感くらいなら良いのですが、時には過度に緊張しすぎて頭の中が真っ白になるということを、私も経験してきました。


メンタルをコントロールする力、というのも、選手の勝負力を決める要素の一つとなります。


よく陸上教室や講演会の時に聞かれる質問で、「どうやったら緊張しませんか?」というものがあります。

結論からいいますと、緊張しないようにする、というとこはできません。

(緊張の度合いはある程度コントロールできますが、ゼロにすることは難しいです)

なので焦点を当てるべきは、「どうやったら緊張しても体が動くようにするか」ということです。

緊張している時に、「緊張するな!」と自分に言い聞かせても、緊張は無くなりませんよね。

逆に一切緊張感を持たずレースをしてしまうと、アドレナリンが出ず、練習以上のパフォーマンスが出来ません。

緊張下でもうまく動けるよう練習を重ねれば、程よい緊張感は味方になってくれます。


これはあくまでも私の場合ですが…

私は、「スタートラインに立った時は、たとえそれがプラスのものであっても感情的な考えは排除し、必ず1つか2つの技術的ポイントだけを考える」と決めていました。

「絶対負けないぞ!」という一見ポジティブな感情であっても、その思いが強すぎると具体性を欠き、実際に体をどう動かしたら良いのか分からなくなるのです。

なので、例えば400mHであれば「今日はスタートの3歩だけはしっかり押す」「バックストレートを頑張りすぎない」「歩数を切り替えるところでピッチを上げる」「ラストは肩の力を抜く」といったような、簡単な事だけを考えるようにしていました。


それだけで400mHが走れたら苦労ないでしょと思われた方。その通りです。

ですから普段の練習は、「自分が400mHを上手に走れるようなキーポイントを探る」ということが重要になるのです。

最初の3歩でしっかり加速に乗るにはどうしたら良いか?

ラストの直線で力まず走れるようにするには道中どのようなレース展開をするべきか?

最終的にはそれらの練習成果が、先述したスタート前の思考がトリガーとなって自動的に実行される、それくらいの練習をすることが重要だと思って取り組んでいました。

そして、この思考をスタート前に3つも4つも考えてしまうと、いわゆる「考えすぎて走れない」という状態に陥ります。

なので、思い浮かべるのは多くても2つまで、というルールを自分に課していました。

(調子の悪い時は、考えないようにしていても次々と湧いてきてしまうってことはありますけどね…!)


もちろん、それですべてのレースが上手くいく訳ではありません。

当然必要な練習が積めていなければ速く走れることはないですし、判断を誤れば失敗もあります。

ただ、一瞬の判断が結果を左右するレースにおいて、最大の弊害となるのは「間違い」よりも「迷い」だと思っていたので、それが正解かどうかは別として、予め自分の行動指針を決めるようにしていました。


これは本当に私の例ですので、人によっては「細かいことを考えず、全て感情に身を任せた方が上手くいく」という方もいると思います。(そういう方が私はとても羨ましいです!)

何にせよ大切なのは、「自分はこうすれば緊張していても動ける」という鍵を見つけることです。


絶対に負けない!という気持ち、負けて悔しい気持ちは練習の糧にして、

勝って嬉しい!という気持ちは、勝ったご褒美にとっておきましょう!


もう一つ。私は気になったことはとことん追求する性格なもので、それがプラスになる時も多いのですが、自分ができないことに対して「自分はこういう環境で育ってきたからできない」「元々こういう骨格だからできない」といった、「できない理由探し」をついついしてしまいがちです…

社会人になったばかりの頃は、アドバイスを下さるコーチや先輩に対しても、「でも私は…」と、そんなことばかり言っていました。

ある時、ふとしたことをきっかけに、自分にそういう癖があることに気づきました。え、自分、否定することばかりに脳のリソースを割いているじゃん!と…

そういう思考の癖はなかなか治りませんが、否定モードに入ってるなと気づいた時は、「なぜできないかじゃなくて、どうやったらできるか考えよう」と、思考を切り替えるようにしています。

時間は有限、脳がいっぺんに考えられることも有限なので。

もちろんできなかった理由の分析はある程度必要ですが、過度な後悔、自省ばかりに貴重な時間を費やさず、建設的な方向に思考をシフトするというのは、大切な事だと今でも思います。

失敗ばかりが続いて頭がぐちゃぐちゃしているときは、今の問題点と、自分が今後どうなっていきたいかを紙に書きだしてみたりすると、存外小さなことでつまずいることに気づいたりするものです。

私もまだまだ長い人生においては若輩者ですから、そうそううまくいくことばかりではありませんが、こういう考え方をする!と決めているととっさの時も悩む時間が少なくて済むのでおすすめです。


勝負強さが求められる場面というのは、意外に人生において出くわす機会も多いと思いますので…少しでも何かのご参考になれば嬉しいです!


Today's Photo

宣材用に撮影したカッコイイ写真、の裏側。

涙ぐましい努力です。

皆で力を合わせて頑張りました!笑
こういう見えない努力って大事ですよね!

RUN ON !!

元アスリートのアクセフコーディネーター・青木沙弥佳による、 ハイパフォーマンスギア「AXF axisfirm(アクセフ)」のおススメ情報 毎週金曜日+αに更新中

青木 沙弥佳
(Aoki Sayaka)

岐阜県岐阜市出身。
中学時に陸上競技を始め、福島大学時に初の日本代表となる世界陸上、そして北京五輪に出場。
専門種目は400m、400mH。
大学卒業後は実業団選手として長く日本のトップで活躍し、2015年に出場した北京世界陸上では4×400mR日本代表メンバーとして日本記録を樹立。
2020年10月に陸上競技を引退し、2021年アクセフコーディネーターに。

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